今回は、ストレスチェックの集団分析について、結果を活用した職場環境改善の方法についてまとめます。
職場環境改善のアプローチ
ストレスチェックの結果を職場や部署単位で集計・分析することにより、職場ごとの課題の有無や内容が浮き彫りになります。問題はその課題に対してどのように対策を講じていくかということになります。
厚生労働省のストレスチェック実施マニュアルによると、職場環境改善のアプローチは改善を実施する主体により以下の3つのタイプに分けられます。
- 主として事業者や衛生委員会が行う職場環境改善
- 主として管理監督者が行う職場環境改善
- 従業員参加型の職場環境改善
一般的には、時間とともに①から③へ段階的に移行していくイメージです。つまり、ストレスチェック制度を導入した当初は集団分析の結果を経営層や人事、衛生委員会メンバーのみが閲覧し、必要な対策を話し合いますが、人事もデータの取扱いに慣れているわけではないので、管理監督者へ展開するのは導入から数年後というケースが多いです。一般の従業員へも結果を共有するにはさらに時間を要したり、また一般従業員へは展開せず、管理監督者までに留めることもあります。集団分析の結果は個人情報ではないにせよ、部署の状況を反映した生々しい結果であることも多く、展開範囲の拡大には慎重な企業が多い印象です。集団分析の結果をどこまで共有するかは、集計した結果を見て、管理職や従業員に与える心理的影響を考慮して判断することが多いです。
改善策(アクションプラン)の立案
集団分析の結果からどうやってアクションプランを立案するかについては、EAPのような事業者にストレスチェックを委託している場合は、集団分析の結果を人事にフィードバックする機会(報告会)で事業者側から提案があることが多いので、その内容を中心に検討すると良いでしょう。報告やコンサルテーションが無い事業者に委託した場合は、社内で実施することになります。社内で実施する場合は、ポータルサイト「こころの耳」に「職場改善のためのヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト)」というページがあり、ここで必要な情報を集めることができます。
■職場改善のためのヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト)
https://kokoro.mhlw.go.jp/manual/hint_shokuba_kaizen/
これらの資料は先行してストレスチェックによる職場環境改善の取り組みを進めてきた知見から得られたもので、参考になると思います。ただし2004年~2005年頃に作成されて更新されていないものが多く、今日の日本企業が置かれている環境とはかなり隔たりがある点には留意が必要です。(たとえばアクションチェックリストの一つに「職場の受動喫煙を防止する」がありますが、現在これが問題となる企業はだいぶ少なくなったのではないかと思います)
フィードバックの留意点
犯人探しをしない
集団分析の結果をフィードバックすると、「高ストレス者は誰か」にばかり注目する方がいます。もちろん部下を気にかけていただくことは管理職として重要ですが、改善を検討するうえでは、個人に注目するのではなく「組織」の課題に目を向けて、「組織」の課題をどうやって解決するかという観点で考えていただく必要があります。少し違った言い方をすれば、組織のメンバーが共通してストレスと感じている要因があれば、それをどうやって取り除くかを考えるのが管理職の役割であるということです。
過度に悲観的にならない
逆に集団分析の結果を見ると「この結果は全て自分の責任ではないか」と考える管理職もいます。職場のストレスは現場の管理職でコントロールできる要素だけではなく、事業が置かれた環境や会社内での位置づけ(力関係)に影響されることもありますし、メンバー個人の性格傾向やプライベートにおけるストレスの影響も受け、実にさまざまな複合的要因の結果を表しています。集団分析の結果は管理職の成績簿ではないので、自分の組織のストレス状態が悪くても、過度に自責的にならず、自分がコントロールできる範囲にフォーカスして改善を考えることが必要です。
社労士 山中健司
東京都社会保険労務士会
この記事の執筆者:社労士 山中健司
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