ストレスチェック制度では、高ストレスと判定された労働者から医師面接を希望する旨の申出があった場合、会社が医師面接を実施しなければなりません。今回はストレスチェック後の医師面接の基本と課題についてまとめます。
ストレスチェック後の医師面接の目的
高ストレスと判定された労働者に対して必要なアクションを講じるため、医師が心身の状況を確認して、休業が必要かの判断を行ったり、環境調整のため就業上の措置が必要かを判断したりします。また、労働者にセルフケアのアドバイスを行ったり、必要に応じて専門機関の受診の紹介を行うこともあります。産業医面談と同じように医療行為ではないため、精神疾患であるかどうかの診断や治療を行うものではありません。
面接指導を実施する医師
まず、医師である必要があります。ストレスチェックの実施者には保健師や精神保健福祉士などもなれますが、面接指導ができる資格は医師に限定されています。
必ずしもストレスチェックの実施者である医師や事業場の産業医でなくてもかまいません。ただし事業場の事情を知っていることがのぞましいため、当該事業場の産業医が実施することが推奨されます。50人未満の事業場で面接指導を実施する場合には、地域の産業保健センター(地さんぽ)を利用することが可能です。
なお、面接指導では精神疾患の診断や治療を行うものでは無いため、必ずしも精神科医や心療内科医が実施する必要はありません。
費用の負担
ストレスチェック後の医師面接の実施義務は事業者にあり、費用は事業者が負担する必要があります。
なお、医師面接に要した時間はストレスチェックの受検に要する時間と同様、労働時間として取り扱うことがのぞましいというのが厚生労働省の見解です。
医師面接の流れ
まず労働者が実施者からストレスチェックの結果通知を受け取ります。高ストレス者と判定された労働者が医師との面接を希望する場合は事業者に対して申出を行います。申出があれば事業者は速やかに医師との面接機会を確保し、労働者が安心して医師面接を受けられるよう配慮しなければなりません。医師面接は通常30分前後で行われ、労働時間や職場環境、仕事の負担感、睡眠状況、気分の落ち込みや不安などを丁寧に聴取します。
面接後、医師は事業者に対し就業上の措置に関する意見を提出します。例えば、時間外労働の削減、深夜勤務の回避、部署異動、休養の確保などが含まれます。これらの措置は、労働者本人の健康保持を第一に考えつつ、業務との調整を図るものです。また、医師が専門的な治療が必要と判断すれば、精神科や心療内科への受診を勧める場合もあります。
実施方法
基本は対面による実施ですが、一定の条件を満たすことにより情報通信機器(テレビ電話)による実施が認められています。詳細は厚生労働省の通知をご参照ください。なお、電話による面接指導は認められません。
医師からの意見聴取
「意見聴取」なので医師に意見を聴きに行くイメージを持たれるかもしれませんが、とくに外部委託先の医師が実施した場合などは、医師から事業者に対して意見書が送られてその意見書で内容を把握することが一般的です。事業場内の産業医など、会社の担当者と会う機会が多い場合は対面、口頭で聴くこともあるかもしれませんが、その場合にも意見書を作成してもらうことが一般的です。
面談記録の保存
事業者は面接指導の結果に基づき、当該面接指導の結果の記録を作成して、5年間保存しなければなりません。なお、以下の項目が記載されたものであれば、医師からの報告をそのまま保存することで足りるとされており、そのような方法が一般的です。ただし、安全配慮義務を果たしていることを示すためには、医師の意見を受けてどのような就業上の措置を図ったか、その結果まで記録しておくと良いでしょう。
- 面接指導の実施年月日
- 当該労働者の氏名
- 面接指導を行った医師の氏名
- 当該労働者の勤務の状況
- 当該労働者の心理的な負担の状況
- その他の当該労働者の心身の状況
- 当該労働者の健康を保持するために必要な措置についての医師の意見
スケジュール感
面接指導のスケジュール感は、厚生労働省のストレスチェック実施マニュアルで下図のように示されています。
本人に対する結果通知から面接指導の申出までを「遅滞なく(概ね1月以内)」行い、申出から面接指導の実施までも1月以内、実施から意見聴取までも1月以内とされています。ただし面接指導で緊急に就業上の措置を講ずべき出会った場合は、可能な限り速やかにとされています。

【出典:厚生労働省・労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル】
課題
これはストレスチェック制度の大きな課題ですが、医師面接を申し出る労働者の割合はきわめて低いです。平成29年「ストレスチェックの実施状況(厚生労働省調査)」では、医師による面接指導を受けた労働者の割合は全事業場平均で0.6%となっています。また、令和5年「全衛連ストレスチェックサービス実施報告書」によれば、医師面接対象者(高ストレスと判定された方)のうち医師面接を実施したのは2.0%で、全受検者に占める割合としては0.3%という報告もあります。
現状の制度では医師面接を申し出る労働者の割合がきわめて低いため、ストレスチェック後の個人の対処を医師面接だけに頼ることはメンタルヘルス不調の未然予防のためには不十分と考えます。会社に知られずに利用できる外部相談窓口を設置したり、相談する時間も無い人のためにセルフケアの方法について研修や情報提供を行うなど、ストレスチェックの結果を個人が活かせるような体制づくりや情報提供を行っておくことがのぞましいと思います。
社労士 山中健司
東京都社会保険労務士会
この記事の執筆者:社労士 山中健司
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