ストレスチェックの実施体制

ストレスチェックを実施するにあたっては、実施体制を決定する必要があります。
今回はストレスチェックの実施体制を決める上で理解しなければならない3つの役割(実施者、実施事務従事者、制度担当者)とは何か、また小規模事業者がストレスチェックを行う際の実施体制の代表的な3つのパターンについてご紹介します。

ストレスチェック制度における3つの役割(実施者、実施事務従事者、制度担当者)

実施者

実施者は、ストレスチェックの中心的な役割を担う専門職です。要件として、医師、保健師、または所定の研修を修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師のいずれかである必要があります。実施者の主な業務は、質問票の選定や評価方法の決定、回答結果の分析、本人への結果通知、面接指導の要否判定などです。ストレスチェックでは労働者の心理的状態や健康情報といった機微な情報を扱うため、実施者には高度な専門性と厳格な守秘義務が求められます。また、人事上の不利益な取扱いにつながるおそれがあることから、労働者の人事権を持つ者はこの実施者になることはできません。
※人事権を持つ者:労働者について解雇、昇進、または異動に関し直接の権限を持つ監督的地位にある者

実施事務従事者

実施事務従事者は、実施者の指示のもとで事務的な作業を行う職員のことを指します。主な業務としては、質問票や回答データの配布・回収・集計、結果通知書の作成、システムへの入力、データの保管などがあります。実施事務従事者は実施者の補助的な立場ですが、個人のストレスチェック結果を扱うため、厳格な秘密保持義務が課されています。また実施者と同様に、人事権を持つ者はこの実施事務従事者になることはできません。

制度担当者

制度担当者は、事業者側でストレスチェック制度全体の企画や運営を担う立場です。多くの場合、人事労務部門や安全衛生部門の担当者が該当します。制度担当者の主な役割は、実施体制の整備、年間スケジュールの策定、従業員への周知や受検勧奨、実施者や外部委託先との調整、そして実施後の職場環境改善の推進などです。
個人結果を取り扱わないため、人事権を持つ者でも制度担当者になることができます。実施事務従事者が制度担当者を兼ねることも可能です。

小規模事業者の実施体制・3つのパターン

従業員50人未満でこれからストレスチェックを実施する場合、実施体制は実施者、実施事務従事者を外部委託するかどうかによって、以下の3つのパターンに分かれることが一般的です。それぞれの概要とメリット/デメリットを整理します。

パターン1:産業医と契約して実施者として選任し、実施事務従事者、制度担当者も社内で対応

この機会に産業医と契約してストレスチェックの実施者になってもらう方法です。実施事務従事者や制度担当者は社員が対応します。

実施者は個人の結果を確認して医師面接を勧奨する役割もありますから、産業医を実施者に選任すれば、健診結果や労働時間の状況も踏まえて個人結果を総合的に評価してもらうことも期待できます。ストレスチェック後の医師面接を任せることもでき、個人に対する細やかなケアと同時に職場の事情を踏まえた意見を得られるメリットもあります。もちろん、ストレスチェック以外の事柄も含めて産業保健体制を整備することにもつながります。
デメリットとしては、費用面があります。産業医との契約は毎月3~5万円程度の費用がかかることが一般的ですので、年間である程度の予算を確保しておく必要があります。

パターン2 実施者は外部委託先の医師とし、実施事務従事者、制度担当者は社内で対応

ストレスチェックの外部委託先には、実施者代行が可能な会社もあります。これは通常料金の範囲内もしくはオプションで外部委託先の医師を実施者として選任することができ、その医師が医師面接の勧奨など実施者業務を遂行してくれるものです。実施事務従事者や制度担当者は社員が対応します。

デメリットとしては実施者は自社の状況を知らず、実際に関わることはほぼ無いという点です。例えば医師面接の対象者は高ストレス者の基準に沿って一律に判定されます。また、従業員から医師面接の申出があった場合は別途面接を実施してくれる医師を探す必要があります。
一方、メリットはコストが安くすむという点です。おそらくパターン1やパターン3と比較してトータルコストはもっとも安くなると予想されます。

パターン3 実施者、実施事務従事者とも外部委託先とし、制度担当者のみ社内で対応

ストレスチェックの外部委託先には、実施者業務に加えて実施事務従事者業務の代行も可能な会社があります。ほとんどすべての作業を外部委託先が対応してくれるので、社内で対応する業務は社員への周知など最低限のもので済むパターンです。

メリットは、運用にかかる社員の工数が最小化できるというものです。実施事務従事者を社員が担当する場合は、実施事務従事者がデータの保管や管理を行う必要がありますが、このパターンはデータの管理も外部委託先で行ってくれるので、運用にかかる社員の工数や負担が軽いというメリットがあります。個人結果に触れる社内の人間がいないため、プライバシーへの配慮でもメリットがあります。
デメリットは、費用面ではおそらくパターン2よりも高くなるという点です。

以上となります。
小規模事業者の導入形態としてはパターン2がもっとも多くなると予想されますが、この機会に産業保健体制を整備したい場合はパターン1が適切かと思います。また、従業員10人未満の企業で社員間のプライバシーに配慮したい場合などは、パターン3を選択することが合理的とも考えられます。

社労士 山中健司

社労士 山中健司

東京都社会保険労務士会

この記事の執筆者:社労士 山中健司

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