今回から何回かに分けて、ストレスチェック制度の大きな柱である「集団分析とその結果の活用」についてまとめていきたいと思います。今回は、集団分析の基本的な事柄についてまとめます。
ストレスチェックの集団分析とは
ストレスチェック制度の目的は、労働者のメンタルヘルス不調の未然防止です。そのために
- 労働者自身のストレスへの気付きを促す
- ストレスの原因となる職場環境の改善につなげる
ことが基本的なアプローチとなります。そして、後者の職場環境の改善の手段として重要なのがストレスチェックの集団分析です。
ストレスチェックの集団分析とは、個人のストレスチェック結果を一定の人数の集団ごとに集計・分析し、職場ごとのストレス状況を把握するものです。職場や部署単位で集計することにより、高ストレス者の多い部署を明らかにしたり、部署ごとの組織課題を明らかにします。大企業の場合は性別や年齢、役職や職種ごとの分析を行い、属性によるストレス状況の違いを人事施策や研修に反映することもあります。
職業性ストレスモデルと集団分析の関係
職業性ストレスモデルの考え方を参照すると、職場のストレス要因が起点となり、これが大きければ大きいほど労働者のストレス反応が高くなるという関係があります。ところが、職場のストレス要因(仕事の量や対人関係、仕事の裁量など)は労働者個人ではどうしようもないものが多く、これらは主に会社側・経営側でコントロール、調整する必要があります。そのためにストレスチェックの集団分析を行い、組織に課題が無いかを確認し、組織の課題に対して対策を打つことが未然予防のためには重要となります。
集団分析の方法
ストレスチェックの調査票に決められたものが無いことから、集団分析の方法としてとくに決められたものはありません。ただし厚生労働省が推奨する職業性ストレス簡易調査票を使用した場合は、集団分析の方法として「仕事のストレス判定図」を作成し評価する方法が一般的です。
「仕事のストレス判定図」はストレスチェックの中で
- 仕事の量的負担
- コントロール(裁量権)
- 上司の支援
- 同僚の支援
の4つの項目の数値から集団の特徴を把握し、従業員が健康を害するリスクの程度を示す「総合健康リスク」を算出して評価するものです。

【量-コントロール判定図】

【職場の支援判定図】
(出典:厚生労働省「職場環境改善スタートのための手引き」)
上記のような「量-コントロール判定図」と「職場の支援判定図」という2つの図を作成します。背景にある理論としては、仕事の量が多く、かつコントロール(裁量権)が小さいほどリスクが高く、また職場における上司や同僚の支援が少ないほどリスクが高いとする理論があります。
これら4つの項目から「総合健康リスク」を算出します。これは100を基準とした指数で、大きければ大きいほど職場で健康を害するリスクが高いことを示します。したがって総合健康リスクの高い組織は対策の必要性が高いことになります。
ただし、仕事のストレス判定図は4つの項目のみから評価を行っている点に注意が必要です。従業員がメンタル不調に陥る原因は4つの項目以外にも職場の対人関係など、さまざまです。集団分析の結果を見るときには職場の対人関係など他の各因子の結果もあわせて確認することがのぞましいです。
集団分析における留意点
集団分析はストレスチェックの実施者が行い、その集計結果を事業者に提供することとされています。集団分析の実施とその結果の活用に際しては、個人の結果が特定されないようにすることに留意する必要があります。そのため、少人数の集団については分析してはならないとされており、具体的には10人を下回る集団の場合には、労働者全員の同意が無い限り結果を事業者に提供してはならないとしています。
ただし、例外として、57項目すべての合計点であるとか、上記の仕事のストレス判定図など個人の特定につながり得ない方法であれば、10人未満の単位で集計・分析を行うことも可能とされています。ただしこの場合も極端に少人数の集団を対象とすることは個人の特定につながるため不適切である点に注意してください。
社労士 山中健司
東京都社会保険労務士会
この記事の執筆者:社労士 山中健司
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