2025.08.12

高ストレス者について(2/2)合計得点法と素点換算法

高ストレス者の判定基準の例は2つある

前回、高ストレス者の判定基準について書きましたが、厚生労働省が示す高ストレス者の判定基準の例には2種類あります。今回はこの比較を中心に書きたいと思います。

職業性ストレス簡易調査票を使った場合の高ストレス者の判定基準は2種類あり、
・その1(合計得点法)
・その2(素点換算法)
があります。基本的な考え方は共通していますが、判定に用いる点数の算出方法が異なります。

判定基準その1(合計得点法)

その1(合計得点法)の判定基準は前回も書いた通りですが、
・ストレス反応29問の合計点数を算出し、合計点数が77点以上であるものを高ストレス者とします。(各設問の点数はストレスが高い方を4点、低い方を1点として積算します。以下の図㋐)
・加えて、ストレス反応の合計点数が63点以上、かつ仕事のストレス要因と周囲のサポートの合計点数が76点以上である者も高ストレス者とします(以下の図㋑)。

(厚生労働省「ストレスチェック制度実施マニュアル」より)

判定基準その2(素点換算法)

一方、その2(素点換算法)はそれぞれの質問の回答を素点換算表により尺度ごとの5段階評価に換算し、その評価点の合計点を基準とします。たとえば、ストレス反応の尺度である「イライラ感」は以下の3つの質問で構成されています。
・怒りを感じる
・内心腹立たしい
・イライラしている
回答は4件法で、以下のようになり、いずれも得点が高いほど高ストレスという方向です。
ほとんどなかった=1点
ときどきあった=2点
しばしばあった=3点
ほとんどいつもあった=4点
この3問の合計得点を「素点換算表」にあてはめ、イライラ感を5段階で評価します。たとえば3問の合計得点が12点の場合は、評価点は性別にかかわらず1となります。(評価点が低いほど高ストレスである点に注意してください)

■素点換算表(男性用) (厚生労働省「数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法」)

この素点換算表は男性用と女性用が存在しますので、受検者の性別によってあてはめる素点換算表が異なります。たとえばイライラ感の3問の合計が10点の場合、男性では評価点が1となりますが、女性の場合は2となり1段階評価が異なります。これは、男性と女性では評価の基準となる母集団の得点分布が異なるためです。

この素点換算表で換算した各尺度の評価点を用いて、以下のように判定します。
・ストレス反応6尺度の合計点数が12点以下であるものを高ストレス者とします。(以下の図㋐)
・加えて、ストレス反応6尺度の合計点数が17点以下、かつ仕事のストレス要因9尺度と周囲のサポート3尺度の合計点数が26点以下である者も高ストレス者とします(以下の図㋑)。

(厚生労働省「ストレスチェック制度実施マニュアル」より)

その1とその2の比較

2つの判定基準を比較したとき、受検者からの見た目や判定の傾向の違い、高ストレス判定の割合をまとめると以下のようになります。

  • 一般的に個人結果(ストレスプロフィール)は素点換算表を用いた5段階評価で示されることが多く、その2の判定はこの5段階評価の得点を基準とするため、ストレスプロフィールとの整合性が高い。一方、その1の場合は素点換算する前の各質問の得点を基準とするため、ストレスプロフィールと整合しないことがある。
  • その1は各質問の得点を単純合計するため、質問数の多い領域に課題がある受検者の結果が悪くなりやすい。具体的には、「活気」「イライラ感」などが3問(各最大12点)であるのに対し、「身体愁訴」は11問(最大44点)あるため、「腰が痛い」「目が疲れる」「眠れない」といった身体愁訴を多く抱える受検者が高ストレスと判定されやすくなる。その2の場合は「活気」も「イライラ感」も「身体愁訴」も1つの尺度として評価する。
  • その1の場合は性別により判定ロジックは変わらない。一方その2は受検者の性別により判定ロジックが異なる。素点換算表が男性用と女性用で異なるため、男女で同じ回答をしても一方が高ストレス者、一方が高ストレス者でないことがある。
  • 実際にどの程度の回答者が高ストレス者と判定されるかについて、約7万件のデータを用いて調査した論文(*1)では、
    その1の場合 男性10.8%、女性13.5%
    その2の場合 男性12.4%、女性14.8%
    となり、男性女性ともにその2の方が判定割合が高くなった。

評価方法としてどちらが優れているといった評価は未だされていないものと理解しています。
1つ気を付けていただきたいのは、ストレスチェックの外部委託先によってはどちらか1つの方法にしか対応していないことがある、ということです。事業主や人事担当者の方で高ストレス者の基準にここまでこだわる方は少ないと思いますが、産業医と契約しており、もし産業医が評価方法にこだわりを持っておられるような場合は、産業医が指定する評価基準に対応できる外部委託先を選定する必要があるでしょう。

(*1) ストレスチェック制度における2つの高ストレス者判定方法の比較 産業衛生学雑誌 63巻(2021)2号
https://doi.org/10.1539/sangyoeisei.2020-017-B

社労士 山中健司

社労士 山中健司

東京都社会保険労務士会

この記事の執筆者:社労士 山中健司

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