高ストレス者の基準
ストレスチェックでは、実施に先立って「高ストレス者」の基準を設定する必要があります。高ストレス者の基準は衛生委員会において調査審議のうえ、あらかじめ労働者に周知するものとされています。高ストレス者の基準に該当し、医師による面接指導を受ける必要があると実施者が認めた労働者からの申出に対しては医師による面接指導を行う義務が事業者に発生します。
この高ストレス者基準も質問票と同様、最終的には事業者が決定することになりますが、職業性ストレス簡易調査票を使った場合の高ストレス者基準の例が厚生労働省から示されており、職業性ストレス簡易調査票によるストレスチェックの場合はこの例に沿った基準が採用されていることがほとんどと考えられます。
実はこの高ストレス者基準の例も「その1」と「その2」の2通り存在します。2つの違いについては次回まとめる予定ですが、ここでは「その1」を例にとって基本的な考え方を説明します。
職業性ストレス簡易調査票の質問は、以下のように分類されます。
・心身のストレス反応:29問
・仕事のストレス要因:17問
・周囲のサポート」9問 (このほかに満足度に関する質問が2問)
上記の3領域の回答を使って高ストレス者の判定をします。まず、ストレス反応29問の合計点数を算出し、合計点数が77点以上であるものを高ストレス者とします。(各設問の点数はストレスが高い方を4点、低い方を1点として積算します。以下の図㋐)
そのうえで、ストレス反応の合計点数が63点以上、かつ仕事のストレス要因と周囲のサポートの合計点数が76点以上である者も高ストレス者とします(以下の図㋑)。
基本的にはすでにストレス反応が一定の程度以上ある者を対象とし、それに準じたストレス反応の者でもストレス要因と周囲のサポートに課題がある者を対象に加えるということになります。
(厚生労働省「ストレスチェック制度実施マニュアル」より)
高ストレス者に該当する者の割合は
この高ストレス者に該当する回答者の割合はどのくらいになるのでしょうか。当初、この高ストレス者基準が策定された段階では10%程度が該当すると想定されていました。しかし実際のデータでは、12~18%程度が高ストレス者に該当することが多いようです。たとえば、年間100万人以上が回答する全衛連ストレスチェックサービスの2022年のデータ(※1)では、14.9%が高ストレス者に該当しました。
高ストレス者=病人ではない
ストレスチェックを導入した会社では、高ストレス者であることをあたかも病気であるかのように捉えられることがあります。高ストレス者はあくまでストレス反応が高く出ている人のことで、病気であるかどうかの判定ではありません(病気かどうかの判断は医師が行うものです)。ストレスチェックはあくまで疾病の説明変数であるストレスを測るものにすぎないことを理解する必要があります。高ストレス者かどうかを含め、ストレスチェックの個人結果は重要なプライバシー情報として扱われる必要はありますが、高ストレスであることと病気であることとは明確に区別する必要があります。
もちろん、誰が高ストレス者に該当するのかは会社や人事担当者、上司には知られない仕組みとなっているので直接的に問題となる場面は通常ありませんが、会社でストレスチェックの話題(雑談)になった場合や、集団分析の結果を取り扱う場面ではこうした誤解がミスリードや良からぬ影響につながるおそれもあります。とくに人事担当者や管理監督者においては正しい理解が求められます。
※1 令和4年全衛連ストレスチェックサービス実施結果報告書
https://www.zeneiren.or.jp/cgi-bin/pdfdata/20231003173609.pdf

社労士 山中健司
東京都社会保険労務士会
この記事の執筆者:社労士 山中健司
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