2025.11.21

ストレスチェックの集団分析③「個人の問題」と「組織の問題」

今回は集団分析の効果や結果の活用を考えるうえで重要な視点について解説します。

「個人の問題」と「組織の問題」

職場のメンタルヘルスの問題には、「個人の問題」と「組織の問題」という2つの見方があります。
「個人の問題」とする見方は、会社で働く人がメンタルヘルス不調になる原因が、多分に本人の性格や遺伝的気質、プライベートの出来事によるものだとする考え方で、平たく言えば「メンタルヘルス不調は心の弱い人がなるものだ」とする考え方です。30年以上前の日本企業ではこのような考え方が支配的だったものと思います。
しかし2000年代以降、うつ病や気分障害の患者が急増してきてから、会社や経営側にも要因があるのではないかとする見方が出てきました。つまり、あまりに過重な業務の負荷であったり、ギスギスした組織風土、パワハラやセクハラといった対人関係の問題によってメンタルヘルス不調が引き起こされるとすると、原因は個人ではなく組織(会社)にあるとする考え方です。

企業のメンタルヘルス対策の変容

「個人の問題」と考えると、会社としての対応は主に発生者への対応となり、休職者の職場復帰支援、または早期発見・早期対応を図ることが中心となります。未然予防としては、従業員へのセルフケア研修や、相談窓口の設置となります。従来の企業におけるメンタルヘルス対策は個人への対応が中心でした。
しかし、もし組織に問題がある場合にはこれらの施策を打っても根本的な解決にはつながらず、メンタルヘルス不調の発生が続くことになります。この「組織の問題」への対応の中心となるのが、ストレスチェックの集団分析による職場環境改善の取り組みです。従業員のストレスチェックの結果を集計し、組織のストレス課題を明らかにし、その改善を検討するというものです。
労働安全衛生法によるストレスチェックの義務化前から取り組んでいる企業もありましたが、近年ようやく取り組む企業の割合も増加してきました。令和6年の労働安全衛生調査によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所のうち、職場環境等の評価及び改善に取り組んでいる事業所の割合は全体で54.7%、50人以上の事業所では75.6%となっています。

必要な意識変革

取り組みが広がってきた集団分析による職場環境改善ですが、真に改善につながる取り組みとするためには、改善に取り組む経営者・管理職の意識変革が必要です。つまり、職場のメンタルヘルス問題の背景には「個人の問題」のみならず「組織の問題」があり、集団分析やその他の情報を見て、必要があれば業務や組織風土の調整を図ることを検討しなければならない、という認識です。一昔前は、組織のマネジメントにおいてストレスは考慮されず、メンタル不調の問題は発生後に対応するという考え方が主流でした。いまや売上やコスト、労働時間などと同じように従業員のストレスをマネジメントの一指標として考えなければ、組織のストレス課題の改善は期待できません。

経営者や管理職が集団分析の結果を見るうえでも、「高ストレス者は誰か」を考えて個人の問題への対応を考えるのではなく、「組織の課題は何か」を考えてその改善を考えることが求められます。

社労士 山中健司

社労士 山中健司

東京都社会保険労務士会

この記事の執筆者:社労士 山中健司

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