小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアルについて①

先日、厚生労働省から「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」が公表されました。これから何回かに分けて、このマニュアルの内容を現行の大規模マニュアルと比較を交えながら解説していきたいと思います。

【本マニュアルの位置づけ】

現在、ストレスチェックに関する公式の資料としては「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」と「ストレスチェック制度関係Q&A」があります。これらは基本的に2015年12月以降実施が義務付けられた労働者数50人以上の事業場を主な対象としています。今回のマニュアルは2025(令和8)年の改正で労働者数50人未満の事業場の実施が義務付けられることになったことを踏まえ、「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」において作成されました。現行の大規模事業場向けマニュアルの改訂ではなく、小規模事業場向けにあらたに作成されたものとなります。
小規模事業場の実態に即し、産業医の選任義務、衛生委員会の設置義務が無いことや、労働者のプライバシーに配慮した内容となっています。2015年の施行後に行われた調査研究の結果や制度運営上の課題を反映した内容となっています。
また、200ページを超える現行の大規模事業場向けマニュアルに対し、48ページとスリムな量になっています。

以下、現行の大規模事業場向け実施マニュアルを「大規模向けマニュアル」、今回公表された小規模事業場向け実施マニュアルを「小規模向けマニュアル」と呼びます。

【実施の流れ】(小規模向けマニュアルP.1)

大規模向けマニュアルでは、ストレスチェックを内製化(社内でストレスチェックの管理システムを構築)する可能性も考慮されていたので、「外部委託先の選定」という内容は含まれていませんでした。
今回の小規模向けマニュアルのストレスチェックは外部委託を前提としています。これは小規模事業場においてはストレスチェックを内製化することが人的にも費用的にも難しく、またプライバシーへの配慮の点で外部委託がのぞましいためです。そのため、準備段階で「ストレスチェックの委託先の選定・契約」が入っています。
大規模事業場においてもストレスチェックは外部委託で実施していることが多く、多くの大規模事業場で実施されているストレスチェックの運用に沿っていると思います。ただし現実には、委託先が決まらないと決められないことも多いので、社内ルールの作成や関係労働者の意見を聴取する前くらいに委託先を検討するのが良いと思います。

【ストレスチェック制度の効果/実施する意義】(小規模向けマニュアルP.5)

2015年の施行後に行われた厚生労働省の効果検証事業の結果から、ストレスチェックを受けた労働者の多くが「自身のストレスが分かったこと」が有用であったと回答しました。また学術論文や研究報告書から、ストレスチェックと職場環境改善の併用により、心理的ストレスの低下や生産性の向上が認められたとしています。
前者の効果検証事業は以下の結果を参照しているものと思われます。

これによると、事業場が感じるストレスチェック制度の効果としては、「社員のメンタルヘルス、セルフケアへの関心度の高まり」との回答がもっとも多くなりました。労働者が感じるストレスチェック制度の効果としては、「自身のストレスを意識するようになった」との回答がもっとも多くなりました。一方で、事業場における「メンタルヘルス不調の減少」は16.9%、労働者アンケートにおける「ストレス解消につながった」は2.9%と低い割合でした。
他の調査結果を見ても、ストレスチェックを実施したことで目に見えてメンタルヘルス不調が減ったというエビデンスは現時点では見当たりません(なぜ目に見えて実施効果が現れにくいのかについてはこちらのコラムを参照)。しかし、メンタルヘルスやストレスに関心を持つことは、メンタルヘルス不調の予防の第一歩として重要ですので、ここにストレスチェック制度を実施する意義があると考えられます。

小規模向けマニュアルでは、他にストレスチェック制度を実施する意義として以下の点を挙げ、事業者はメンタルヘルス対策を経営課題として位置づけ、ストレスチェック制度にしっかり取り組んでいくことが重要としています。

  • メンタルヘルスに不調による病休期間は平均で約3か月、復職後再び病休になる割合も約半数であり、特に小規模事業場にとっては大きなリスク
  • 職場のメンタルヘルス対策に取り組むことは、働きやすい職場を実現し生産性の向上や人材の確保・定着など、小規模事業場の持続的な経営に資する
社労士 山中健司

社労士 山中健司

東京都社会保険労務士会

この記事の執筆者:社労士 山中健司

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