2025.12.06

ストレスチェック実施の効果

今回は、ストレスチェックを実施することによる効果についてまとめます。

ストレスチェックの効果に関する調査研究

ストレスチェック制度の目的は、メンタルヘルス不調の未然予防にあります。そのために、労働者自身のストレスへの気付きを促すと同時に、ストレスの原因となる職場環境の改善につなげるというものです。
当然ながら、取り組みの効果がどのくらい出ているのか、すでにさまざまな検証が行われています。多くの研修を精査したものが、令和3年度厚生労働省委託事業「ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業」報告書にまとめられています。

その中では、ストレスチェック制度が従業員のメンタルヘルスへの理解・意識向上等について有用であるとか、医師面接や職場環境改善が有用だったとのアンケート回答が紹介されていました。一方で、ストレスチェック制度の導入によって労働者の心理的負担が軽減されたとは言えないとか、職場におけるメンタルヘルス対策の進展に影響はないという見解が多かったというアンケートも紹介されていました。

ただし皆さんが期待すると思われるような、たとえばストレスチェックを実施したことによってメンタルヘルス不調者が減ったとか、会社の高ストレス者率が下がったというような成果を明確に示すデータはなかなか見ることができません。

ストレスチェックの効果が目に見えて現れにくい理由

ここで少しストレスチェックの効果、とくにアウトカム(メンタルヘルス不調者や高ストレス者)の低減を示す調査が無いことについて、考えられる理由を挙げてみたいと思います。

実施の間隔が長い

労働安全衛生法では年に1回のストレスチェックを義務付けています。これより高い頻度で実施することもできますが、産業医をはじめ関係者が動く必要があるため、年に2回以上ストレスチェックを実施する企業は多くありません。
個人のことを考えると、ストレスチェックを受けて結果を確認し、セルフケアに努める行動をとればストレスが緩和することが考えられますが、効果が出るスパンとしては1週間から1か月以内でしょう。よほど行動変容が定着しない限り、数カ月も効果が持続することは考えにくいです。
組織の場合は集団分析の結果が出て職場環境改善の取り組みを行い、3カ月から半年くらいかけて改善に取り組むことが多いので、個人の場合よりも効果が持続するスパンは長いと考えられます。ただし1年後となると、改善がしっかり定着している必要がありますし、組織再編や人事異動などでそもそもの仕事のやり方が変わり、効果を確認できないこともあります。
あくまで個人的な考えですが、ストレスチェックの効果を検証するなら、1か月から3か月おきに1回くらいの頻度でチェックを実施する必要があると思います。

外部環境やプライベートの出来事など、その他の要因の影響を受けやすい

上記とも関係しますが、1年後のストレスチェックの結果はセルフケアや職場環境改善の影響だけでなく、業務の繁閑や対人関係の円滑さ、事業環境にも影響されますし、従業員のプライベートな出来事の影響も受けます。他の変数の影響を排除してストレスチェックやメンタルヘルス対策の効果だけを切り取って測定することは困難です。

メンタルヘルス不調者のデータをとることが難しい

実際にはこれが大きいと思いますが、実際にメンタルヘルス不調になったかどうかをデータとして取らなければ検証はできませんが、このデータを取ることの難しさがあると思います。メンタルヘルス不調であることのデータは企業の中でも機微な情報として扱われており、簡単にやり取りはできません。まして企業外の研究者や調査機関に渡すことは非常にハードルが高いです。しかもメンタルヘルス不調者の発生割合は低いですから、母集団としては複数の企業にまたがって非常に大きな数のサンプルを集める必要があります。
究極的にはストレスチェックのデータとメンタルヘルス不調者のデータを大量に揃えたうえで突合するといった検証が必要ですが、このデータを揃えることがきわめて困難と思われます。

ストレスチェック実施の効果は「意識・関心の高まり」

母集団の数が小さく、一般化するのが難しい調査結果も多いですが、以下の調査についてはおそらく一般的にも当てはまることなのでご紹介したいと思います。2017年に行われた「ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境改善効果に関する研究」では、事業場と労働者それぞれが感じるストレスチェック制度の効果についてアンケートをとっています。全体の集計は以下のようになります。


事業場が感じるストレスチェック制度の効果(n=3,115)としては、
社員のメンタルヘルスセルフケアへの関心度の高まり:53.1%
メンタルヘルスに理解ある風土の醸成:27.8%
(「メンタルヘルス不調者の減少」は16.9%)

労働者が感じるストレスチェック制度の効果(n=1,981)としては、
自身のストレスを意識するようになった:50.2%

事業場側からみても、労働者からみても、メンタルヘルスやストレスに関心を持ち、意識するようになったという回答が多いことがわかります。ストレスチェックによって個人や組織のストレス状況が可視化されたことで、日常の個人の活動や経営活動に影響を与えていれば、将来的にメンタルヘルス不調者の低減や組織ストレスの低減の効果が現れることも期待できます。これからストレスチェック制度を導入する企業は短期的な効果を求めず、まずはメンタルヘルスやストレスに対する意識の向上を促し、長期的にメンタルヘルス不調者の低減を図っていくスタンスが望ましいと考えます。

社労士 山中健司

社労士 山中健司

東京都社会保険労務士会

この記事の執筆者:社労士 山中健司

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