労働安全衛生法に基づくストレスチェックは一体何を測っているのか。今回はこのお話から、職業性ストレスに関して最も普遍的なモデルとされている「職業性ストレスモデル」について説明します。
労働安全衛生規則において、ストレスチェックの測定項目について以下のように定められています。
事業者は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、次に掲げる事項について法第66条の10第1項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査(以下この節において「検査」という。)を行わなければならない。
1 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
2 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
3 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
(労働安全衛生規則第52条の9)
条文は少し長いので、ここではそれぞれ
- ストレスの原因
- ストレス症状(ストレス反応ともいいます)
- 周囲からのサポート
と略しておきましょう。
実はストレスチェックに使用する調査票は決められたものはなく、各事業場において実施者の意見を聴いたうえで衛生委員会において調査審議を行い、事業者が決定するものとされています。ただし要件として、上記の3つの項目(領域)を含まなければならないとされています。
なぜ、この3つの項目(領域)を測らなければならないかというと、背景として「職業性ストレスモデル」の考え方があるからです。以下、職業性ストレスモデルについて説明します。
職業性ストレスモデルの考え方を図示したのが上図です。この考え方は、仕事の量的負荷や対人関係といった職場のストレス要因(①)が起点となり、これが大きければ大きいほど抑うつやイライラ感、身体愁訴といったストレス反応(②)が大きくなるというものです。このストレス反応が大きくなればなるほど、長期化するほどさらにその右側の疾病(うつ病などの精神疾患が主ですがストレス性の循環器疾患なども含まれます)につながるとする考え方です。
この因果関係に対して、修飾要因として作用するのが以下の要素です。
- 個人的要因(性別や年齢、性格傾向など)
- 仕事以外の要因(家族、家庭からの要求など)
- 社会的支援(職場やプライベートなど、周囲の人間からの心理的支援)…③
このうち、個人のメンタルヘルス不調を予防する観点からは、ストレス反応がもっとも重要な要素となります。高ストレス者の基準も、このストレス反応を主たる変数として設定されることが一般的ですが、ストレス反応が高いという結果が出た個人は、さらに悪化しないようケアが必要とされます。
また、職場環境の改善という観点からは、職場のストレス要因が重要になります。集団分析という手法を使って組織のストレス状況を見ていくとき、高ストレス者割合などストレス反応に関する指標も重要ですが、改善を検討する場合には、当然ながら原因にさかのぼって見ていく必要があります。職場のストレス要因に改善すべき点がないか検討していくことになります。
また、周囲からのサポートは個人の観点からも組織の観点からも大事な要素となります。職業性ストレスモデルの理論では、周囲からのサポートが充実していれば、職場のストレス要因が多少高くてもストレス反応には現れにくくなり、メンタルヘルス疾患の予防につながります。個人としてはこの周囲からのサポートが不足している場合、もっと周囲の人を頼ってサポートを求める行動を取ったり、あるいは職場や家庭以外にサポート源を探したりする方策もあります。組織として周囲からのサポートが不足している場合は、コミュニケーションの活性化やメンバー間での情報共有などにより、職場内でのサポートを機能させることも検討の必要があります。
このようにメンタルヘルス不調を個人だけでなく組織として未然予防に取り組む観点から、職場のストレス要因や周囲からのサポートもあわせて測定することが定められています。

社労士 山中健司
東京都社会保険労務士会
この記事の執筆者:社労士 山中健司
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