先日、令和6年度の労災補償状況が公表されました。
精神障害による労災は請求件数、認定件数とも過去最多を更新し、認定件数は1,055件と初めて1,000件を超えました。
過去10年間の推移をグラフにしましたが、ここ6年間(2019年度~2024年度)は認定件数が過去最高を更新しつづけています。事業場におけるメンタルヘルスの予防的取り組みを一層推進する必要があります。
また、データの中では出来事別の支給決定件数に着目しました。支給決定件数についてみると、上位は以下のようになり、パワハラ、カスハラ、セクハラによる労働災害の件数が多いことがわかります
- 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた…224件
- 仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった…119件
- 顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた(いわゆるカスハラ)…108件
- セクシュアルハラスメントを受けた…105件
一方、決定件数全体に占める支給決定件数(認定率)についても見ていくと、新たな事実がわかります。
認定率は全体では30.8%でしたが、支給決定件数の上位4つのうち、ハラスメント関連の認定率はいずれも50%を超えました(パワハラ57.6%、カスハラ52.2%、セクハラ55.0%)。一方、
「上司とのトラブルがあった」4.0%
「同僚とのトラブルがあった」1.8%
「部下とのトラブルがあった」8.8%
と、職場の対人関係上のトラブルだけでは認定率が低くなる傾向があるようです。上司との問題でも、パワハラと認定された事案については高い確率で労働災害と認定された一方で、そうでない事案については労働災害と認定される確率がかなり低くなるようです。パワハラと認定されるかどうかは令和5年9月1日付「心理的負荷による精神障害の認定基準について」別表1による分類ですので、この分類でパワハラと認められるようなケースでは労働災害と認められる可能性も高くなると考えられます。
また、不支給を含めた決定件数全体では「上司とのトラブル」が群を抜いて多いこともポイントです。最終的には労災と認定されなかったものの、メンタルヘルスの問題で休職したり退職した従業員が原因を職場(上司)に求めて労災申請するケースが非常に増えてきているものと考えます。10年前と比べると「上司とのトラブルがあった」の決定件数は4倍以上になっています。
会社としては、管理職に対するハラスメント研修を行う一方で、そもそも部下がメンタル不調にならないように予防の取り組みに力を入れることがリスク対策としても重要になってきています。

社労士 山中健司
東京都社会保険労務士会
この記事の執筆者:社労士 山中健司
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