厚生労働省では無償で利用できるストレスチェック実施プログラムを配布しています。今回はこのプログラムについて、できることや実際に使ってみて感じた留意点等をまとめます。
厚生労働省版ストレスチェック実施プログラムとは
厚生労働省が配布しているストレスチェック用実施プログラムです。無償で利用することができます。ダウンロードして解凍すると、「実施者用管理ツール」「受検者回答用アプリ」「職場結果閲覧用アプリ」および外部データ取込用のサンプルデータが展開されます。
(実施者用管理ツールの画面)
厚生労働省版ストレスチェック実施プログラムで出来ること
- ストレスチェックの受検
- 受検回答用アプリ(PC上で動作)での回答:2通り用意されており、①実施者があらかじめ受検者情報を登録しログイン情報を回答者に配布する方法②回答者がアプリを立ち上げ自分で社員ID等を入力する方法、があります。
- Excel版調査票での回答
- 紙での回答(実施者もしくは実施事務従事者がデータ入力)
- 労働者の受検状況を管理する機能
- 高ストレス者を判定する機能
- 個人のストレスチェック結果を出力する機能
- 仕事のストレス判定図を出力する機能
- 集団ごとの集計・分析
- 面接指導の実施管理
- 労働基準監督署へ報告する情報を表示する機能
他に便利な機能として、過去データの紐づけや、個人へのフィードバックコメントの編集 実施結果の見方ファイル差し替えなどもあり、思ったよりいろいろなことができると思いました。
必要な環境
- 実施者のパソコン
- 受検者のパソコン(受検者回答用アプリやExcelで受検する場合)
- 共有サーバー(受検者のパソコンで、受検者回答用アプリ受検の場合)
- プリンター(紙の帳票を出力する場合)
なお、実施者や受検者のパソコンはWindowsである必要があります。
受検開始までの流れ
- ストレスチェックプログラムをダウンロードサイトからダウンロードし、実施者のパソコンにインストールする
- 実施者用管理ツールを立ち上げ、初期設定を行う
- ストレスチェック実施に関する情報を登録する。ログイン形式で実施する場合は受検者情報も登録する。
- ストレスチェックを実施する。
- 受検回答用アプリで回答させる場合:受検回答用アプリへのショートカットを受検者に配布し、受検者のパソコンから受検回答用アプリにアクセスしてもらう。アプリはファイル共有サーバーなど受検者がアクセスできる場所にある必要があります。
- Excel版調査票で回答させる場合:Excel版調査票を受検者に配布。回収したExcelを実施者用管理ツールで取り込む
- 紙の調査票で回答させる場合:紙の調査票を受検者に配布。回収した紙から取込用データを作成し、実施者用管理ツールで取り込む
留意が必要な点
あとからの設定変更がむずかしい
実施者用管理ツールで受検方法などの初期設定を行いますが、この初期設定の後で行う実施管理(実施回の情報を登録)に進むと、初期設定の情報を変更することができません。たとえば受検者に受検回答用のID、パスワードをメールで送る機能がありますが、初期設定で「受検者情報の必須項目」に「メールアドレス」を追加しておかないと、その後はIDパスワードをメールで送る機能を使うことができず、もしどうしても使いたい場合は1からやり直しになります。
クライアントサーバーシステムを前提としている
受検回答用アプリで受検させる場合は、社内のシステムが伝統的なクライアントサーバーシステムである必要があります。もう古い用語になりつつありますが、ファイル共有やメール送受信などを行うサーバーと、これを利用する端末(クライアント、通常はパソコン)で構成されるシステムで、これらの装置が同じネットワーク(基本的には同一のLAN)内にある必要があります。最近はファイル共有などをクラウドサービスで行う会社が増えていますが、ファイル共有サーバーを使っていない場合は受検回答用アプリでの受検が難しいと思われます。
ショートカットの配布
受検回答用アプリで受検させる場合は、受検回答用プログラムを社内のファイル共有サーバーに置き、クライアントPCからはファイルサーバー上のプログラムにアクセスして実行する必要があります。一般的にはショートカット(.lnk)を作成してそれを受検者に共有する方法が考えられますが、このショートカットをメールで送るときは注意が必要です。ショートカットでなくプログラムのファイルが添付されてしまったり、メーラーによってはセキュリティの関係で送れないことがあります(Gmailではセキュリティ上の理由で添付できませんでした)。
個別にメールを送付→「メールソフトを起動」
受検者に個別にメールを送る機能がありますが、この場合はWindows既定のメールソフト(Outlookなど)を使って送るようになっています。ふだんWebブラウザのメールしか使っていない人は、この機能を使うためにはメールソフトの設定を行う必要があります。
セキュリティ
受検回答用アプリで回答させる場合は、受検回答用プログラムを社内のファイル共有サーバーに置き、クライアントPCからアクセスさせますが、受検した個人の結果データやそれを閲覧できる実施者用管理ツールは同じフォルダに置く必要があります。フォルダの権限設定や実施者用管理ツールのパスワードを厳密に管理しないと、社員の個人結果データが他の社員に閲覧されてしまうリスクがあります。
実施者用管理ツールのパスワード管理
実施者用管理ツールのパスワードを紛失した場合、回復手段は無いため、プログラムを再インストールすることになります。また、実施者用管理ツールのパスワードが誤って漏洩してしまうとすでに受検した方の個人結果が見られてしまうリスクがあります。実施者用管理ツールのパスワードは絶対に外部に漏洩させず、かつ絶対に紛失しない必要があります。
受検者パスワード再発行の手続き
受検回答用アプリで回答させる場合、受検者がパスワードを忘れることがありますが、パスワード再発行は実施者用管理ツールから行う必要があります(受検回答用アプリから自動で再発行はできない)。
実施者と人事の権限が分化していない
このプログラムでは個人結果を閲覧・出力できる実施者と回答者という2つのロール(役割)しかなく、初期設定や回答状況の管理なども実施者用管理ツールで行う必要があります。未回答者のフォローを行うのが実施事務従事者であれば問題ありませんが、実施事務従事者ではない一般の人事担当者は個人結果を見ることができないため、管理ツールを扱うことができず、たとえば未回答者のフォローを行うことができません。
個人結果は実施者が出力して本人に渡す
いずれの受検方法の場合も正式な個人結果は実施者が実施者用管理ツールから紙またはPDFで出力したうえで本人に渡すフローとなります。ストレスチェックの個人結果は心の健康に関する機微な情報であり、とくに慎重な取扱いが必要とされます。個人結果の受け渡し方法についてはよく検討し、送付間違いや滅失、漏洩などの無いよう万全を期する必要があります。
まとめ
厚生労働省のストレスチェック実施プログラムは無償で利用することができますが、留意すべき項目がいくつかあり、とくに受検回答用アプリで回答させる場合はシステム構成の確認やセキュリティなど留意する必要があります。また、ストレスチェックの実施には医師や保健師などストレスチェック実施者となる方が必要です。小規模の事業者で産業医や保健師がいない場合は、医師や保健師など実施者に支払うコストを見込んでおく必要があります。実施方法の検討にあたってはこれらの点を踏まえて、社内で実施するか外部委託するかを検討する必要があります。

社労士 山中健司
東京都社会保険労務士会
この記事の執筆者:社労士 山中健司
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